忍者ブログ
一次創作、時々版権ネタ。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

一年越しのグランクレスト大戦アフター話。
オプションを主人公にした、ちょっと長めのRPです。


ある晴れた日、一台の馬車が街の郊外へと向かっていた。
乗り合わせた商人は幌の隙間から外をちらりとのぞき、今一度数枚の紙を取り出した。
この数ヶ月で得た情報を自分なりに取りまとめたものだ。

――そもそもの発端は、うらさびれた廃屋から複数の人骨が見つかったことだった。
全身が揃った物はなく、汚れて擦り切れた衣服や防具の一部からして
いずれも兵士の死体と思われた。
また付近で見つかった手帳には「同盟」や「パンドラ」という単語が何度も出てきた。

「私はパンドラを追う。戦争を終結させることが同盟のためになると信じている」
「私も混沌がなくなれば魔法は使えなくなる。
だが平和によって失うものよりも、戦争によって失うものがずっと大きい。
だから皆こうして戦っている。そうではないのか?」
「他勢力の使者と接触。新たな情報を得る。
情報を兵に持たせて帰し、このまま更なる調査に赴く事とする」――

……かつての大戦でパンドラを追い、
忽然と姿を消した一団を覚えている者がいたのは幸いだった。
複数人から得た当時の証言を照合し、また風化の度合いを鑑定した結果
同盟の魔法師エールと彼女が率いた兵士達の遺骨と断定された。

そして今、商人は彼らの眠る墓へと向かっている。
大戦の生き残りとして、かの指揮官に関わった証人として、
彼らの行く末を最後まで見届けるために。

――共同墓地は閑散としている。
うち一角の土が掘り返され、新しくなっているのが見えた。
その手前で初老の婦人が佇んでいる。
豊かな髪を伸ばし、深い色をした瞳はエールによく似ている。おそらく彼女の母親だろう。
傍らの使用人と思しき青年に支えられるようにして、墓碑に刻まれた文字を見つめていた。

2人のそばによって軽く会釈すると、婦人も顔を上げた。
聞けば、エール達が埋葬された日からしばらく街に滞在しているらしい。
彼女は多くを語らなかったし、商人もまた深くは聞かなかった。
代わりに、記録を今一度思い出していた。

……遺骨の一部は激しく損傷していた、と聞く。
それも風化して脆くなったものではなく、生きていた間に付けられた傷だろうとの見解だ。
骨にまで達するほどの傷。それが示す意味を、この人達は知ってしまったのだろうか。
頭の中に様々な思いがめぐり、そしてふと気付いた。
奇しくも今日は、彼らが消えたのと同じ日だ。

木々のこずえが風にそよぐ音でふと我に返った。
今日ここに来たのは墓参りのためだけではない。ある荷物を彼らに渡すためでもある。

商人は布で包んだそれを取り出した。
「彼女から、さる君主の元で世話になっていると聞いていた。
迷惑でなければ、これを届けてはいただけないか」
そう言って婦人に包みを手渡し、開けるよう目で促した。

――中に納められていたのは、真っ二つに折れたタクトだった。
遺骨とともに見つかった品で、柄にアカデミーの刻印がされている。
アカデミー学生でもあったエールの身元を証明する貴重な証拠のひとつでもあった。
本来ならば棺と共に埋められるべき品だろう。
……彼女自身がそれを望んでいるのかはわからないが。それでも。

「あの人は、いつか君主と共に戦いたいと常に言っていた。
せめて魔法師としての彼女は傍に置いてもらいたい」

タクトは彼が扱う商品同様、綺麗に磨き上げられていた。
彼女のことだ、恩人に醜い姿は見せたくあるまい。
果たしてこちらの意図を汲み取ったのか、婦人はひとつ頷いて遺品を包みなおした。

――春は近い。商人は、肌に触れる暖かい風を感じながら思う。
いずれこの地も草花で埋め尽くされるだろう。
エールが最後まで望みながらついに見ることのなかった、つかの間の平穏がそこにあった。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
[276]  [275]  [274]  [272]  [271]  [268]  [260]  [264]  [267]  [263]  [261
カレンダー
01 2025/02 03
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28
プロフィール
HN:
千草はる
性別:
非公開
自己紹介:
ツイッター:@hal_mgn
ブログ内検索
P R
Admin / Write
忍者ブログ [PR]