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一次創作、時々版権ネタ。
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リプレイ「赤い花は三度咲く」の後日談。
シナリオ本編とは直接関係ありません。

一部PCの過去設定に関わるシーンがあります。ご注意ください。


「……なあ」
「どうしたの?……やっぱり、イオネのことが心配?」
「心配……っていうか、それもあるんだけど……」

ある晴れた昼下がり。
穏やかな青空とは裏腹に、イクスは珍しく浮かない顔をしていた。
買い込んだ傷薬の袋を抱えたまま、なかなか話を切り出そうとしない。
カルラは何も言わず、隣を歩きながら彼が話し出すのを待っていた。

「……昔さ。姉貴がすごい怪我した、って聞いたとき。正直すごく怖かった」

沈黙の後、唐突にイクスが口を開いた。

「片目が見えなくなるっていうのも、姉貴の仲間が死んだっていうのも信じられなかった。
とにかく、一度にいろんなものをなくして。あんなに強かった姉貴が、すごく弱そうに見えた。
だから力になりたくて。なくしたものの穴を埋めたくて、冒険者になるって言ったんだ」

――その日のことは、カルラもよく覚えていた。
イオネにとって大切な仲間を、
そしてカルラにとってはただ一人の兄を失った時のことを。

考えを口にすることで頭の中を整理するように、
ただまとまりのない言葉が吐き出されていく。

「なあ、カルラ。姉貴から信じてもらうには、まだ足りなかったのかな。
俺は昔見たかっこいい冒険者みたいに……、あの人の代わりになれてるのかな」

砦での一幕。自分ならイオネの腕を切り落とさずとも乗り切れると信じていた。
あの時自分に任せてくれなかったのは、まだ自分が未熟だからか――と。
不安な思いを全てを吐き出し、また暗い顔で黙り込んだ。

……カルラはしばし考え、答えた。

「それは違うんじゃないかしら」
「だよなー。やっぱり姉貴達みたいな冒険者には……」
「そうじゃないの。誰かの代わりっていうのは、違うと思う」

それはイクスにとって思いもよらない言葉だったようで、きょとんとした顔で見つめる。

「イオネは誰かの代わりじゃなく、あなただから選んだのよ。
あなたになら任せられると思ったから。命を預けて、ともに助け合えると思ったから」

カルラは少し迷って、続けた。

「それに……これは、私の考えだけど。
イオネはあなたを信じなかったんじゃないわ。頼れる仲間を守りたかったのよ。
あの時も言ってたでしょ。これ以上私のせいで仲間が傷つくのを見たくないって」

もう二度と、自分の目の前で仲間が死ぬのを見たくない――
そう思って出た言葉だろう、とカルラは言った。

「――誰かの代わりじゃなくて、俺自身だから選んだ、か。そっか……」

カルラの言葉をどこまで受け止めたのか、イクスは彼女の言葉を反芻する。
その顔はさっきまでとは違い、陽が差したように明るい。
大事な仲間であり憧れていた先輩に認められている、という確証を
得られたことが嬉しかったのだろう。

(私も、大事な人が死ぬのはもう嫌。だからイオネを止められなかった。
……イオネが腕を失った責任の一端は、きっと私にもある。
だから、あなただけが悪いんじゃないわ)

後に続く贖罪の言葉を飲み込んで、カルラもあいまいに笑い返した。




静まり返った夜の宿に一人きり。
シンはカウンターに頬杖をつき、何度めかのため息をついた。

「なんだ、相変わらず暗い顔してるな。どうしてもっていうなら、相談に乗ってやろうか?」

不意に、暗がりから声がかかる。
シンは声の主を一瞥し、ふたたびため息をついた。

「嫌な奴をわざと挑発するためにイノの真似したらびっくりするぐらい似ててさ。
あんたの特徴を完璧に掴んでる自分が嫌になった」
「そうかい。お前ごときに簡単に真似られるようじゃ俺も終わりだな」

イノはいつもと変わらない口調で返したが、顔にはありありと苛立ちの色が浮かんでいる。
兄弟2人の間でピリピリした空気が漂う中、扉が開いてリリーが帰ってきた。

「ただいま。シン、親父さんは?」
「会合とかで出かけてる。留守番を頼まれたけど、今日はもう誰も来ないかな」
「そう。なら仕方ないわね、台所を借りて何か作ろうかしら」

そう言いながらリリーは台所へと引っ込む。シンは慌てて立ち上がった。

「ま、待って!僕がやるからリリーは待ってて!」
「なんだ、美人の手料理が食べれる機会をみすみす潰す気か?案外、仲間には過保護なんだな」
「そんなんじゃ……」

言い返そうとして、すぐ思い直した。
考えようによってはこれは絶好のチャンスだ。

「リリー、イノが君の料理を食べたいって!こいつの分も作ってあげて!」

そう声をかけながらリリーの後を追った。
――リリーが調理すると総じて生物兵器が出来上がることなど、イノは当然知る由もない。

台所ではリリーが食材を切り刻んでいた。
が、どこか様子がおかしい。
……元より彼女が台所に立って、まともに終わった例はないのだが。

(……手が震えてる?)

彼女が不器用なのは知っているが、ここまでだったか。
疑問に思いながら見ていると、観念したように包丁を置いた。

「どうしたの?いやに思いつめた顔して。そんなに料理するのが嫌いだっけ?」
「違うわよ。……ねえシン、あなた約束は守れる人よね?」
「急に何?」
「誰にも言わないかって聞いてるの!」
「言わないよ。口が堅くなきゃ冒険者なんて務まらないでしょ」

何をもったいぶっているのだろう、と思いながら答える。
リリーは周囲を見渡して誰もいないことを確かめ、小声でそっと打ち明けた。

「実はね……、包丁を持つのが怖いのよ」
「……は?なんて?」
「だから刃物が持てないの!何度も言わせないで!
……イオネの腕を切った時の感触が、離れなくて。手が震えるのよ」

そういうと自嘲気味に笑った。

「笑える話よね。凄腕の冒険者が、こんなちっぽけなものを怖がるなんて。
たかが一度、人を切ったぐらいで。本当、情けないわ」
「……自分で凄腕って言っちゃうんだ」

思わず呆れた声が口をつく。
しかし常に強気で過剰なほど自信にあふれているリリーにとって、
刃物が持てないという些細なことで躓く事は許せないのだろう。
あっさりしているように見えて、意外と面倒な人だ……と思う。

「でも元から武器は使わないんだし、料理が出来ないのは僕達が代わればいいし……
刃物が使えなくても、すぐに困ることはないでしょ」

そう言いながらシンは包丁を手に取り、残りの材料を切る。
先ほどまでとは違い、あっという間に均等な大きさに揃っていく。

「格好悪いじゃない!それに、いざって時に武器が持てなきゃ危ないわ」
「君の体面は置いといて。焦らずに少しずつ慣らしていけばいいんじゃない?
必要な時に怖がらずにいられるようにさ」

全ての材料を切り終え、差し出して言う。

「確かに君は自信家で偉そうだけど。それに見合うだけの努力はいつもしてきたじゃない。
情けない自分のまま終わる気はないんでしょ?」

リリーはしばし食材とシンの顔を見つめていたが、ふっと口元を綻ばせた。

「悪かったわね、偉そうで自信家で。あなたもよく分かってるじゃない」
「あ、自覚あるんだ」
「そっちじゃないわよ。情けない自分で終わる気はないってとこ」

そう答えるリリーの顔は、いつものやる気に満ちた表情に戻っている。
この分なら大したことはないだろう、単純な人でよかったとシンも胸をなでおろした。
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