一次創作、時々版権ネタ。
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自作シナリオに合わせた短編。
シナリオの裏設定を拾うだけの話なので、特にプレイしてなくても話は通じるはず。
これ書きたいがために自作シナリオの舞台を練ったので
シナリオ単体だと中二くさいんじゃないかと心配な今日この頃。
シナリオの裏設定を拾うだけの話なので、特にプレイしてなくても話は通じるはず。
これ書きたいがために自作シナリオの舞台を練ったので
シナリオ単体だと中二くさいんじゃないかと心配な今日この頃。
「――全く、困りましたね」
カライスは空を仰いだ。
日が落ちかかっているが辺りには民家ひとつ見えず、
高原のなだらかな斜面が続いている。
「どういうことよ!南に抜ければ街への近道だって言ったのはあなたじゃない!」
「そうでしたっけ?」
「とぼけないで!宿を出て何日経ったと思ってるの!?
今日こそは暖かいベッドで眠れると思ったのに!」
「やめてよ2人とも!エリーゼ、疲れてるのは皆同じよ」
フェリシャが割って入り、詰め寄るエリーゼを宥める。
気まずい空気を変えようと辺りを見渡したカライスが、ある一点を指差した。
「ほら、見てください!あそこに街が見えますよ」
「またそんなこと言って、……あら、本当ね。地図には何も載ってないのだけれど」
「え、どこ?暗いだけで何にも見えないよ?」
指差す方角を見たルークが首をひねる。
他の仲間も目を凝らすが、どうにも夜目の利く2人にしか分からないようだ。
しかし他に行く宛てもなく、ひとまず一行はエリーゼの先導に従い街へと向かった。
近づくにつれ、街の全容が見えてきた。
辺境の地にしては意外にも広く、境目に塀がそびえたっている。
そしてこれほど広い街でありながら、灯火のひとつも見えず人の気配もない。
――セシルの心の中で、不安が首をもたげる。
「塀に囲まれた高原の街か。なんだか不思議な感じね」
「ただのゴーストタウンじゃない?」
「言わないでよー、考えないようにしてたんだから」
好奇心を抑えきれないフェリシャとは対照的に、アイリーンは大きくため息をつく。
エリーゼが再び噛みつこうとする気配を察し、慌てて
「で、でも誰もいないと決まったわけじゃないし!
たまたま人が全員出かけてるだけかもしれないよ!」
「そうですよ、それに廃墟なら適当な家を借りればいいだけの話です」
何とかその場をとり静めながら、街の門をくぐる。
どの家にも明かりはなく、立派だったであろう庭は草花が伸びっぱなしになっている。
廃村になって久しいことは、誰の目にも明らかだった。
一行はその中でも一際大きく綺麗な家を選び、その日の宿とした。
「本当に大丈夫なのかよ?地図にない街なんてどう考えても怪しいじゃねえか。
いつかの幽霊屋敷みてえなことになったら……」
「いいじゃないですか。随分放置されている割には綺麗みたいですし」
「余計不安だ……!」
しかしセシルの心配とは裏腹に、何事もなく夜が明けた。
翌朝一行を起こしたのは、フェリシャの喜びの声だった。
「みんなー、あれ見て!あれ!」
フェリシャの見つめる先には、町の中心に建つ塔があった。
街を囲む塀よりもなお高く、朝日に照らされて白く輝いている。
「あんな塔あったんだ。来たときにはちっとも気づかなかったよ」
「地図にない街と白い塔、歌になっててもおかしくない風景よね!」
「そんなにはしゃぐこと?ちょっと大きな塔じゃん」
「あれだけ高い塔なら、上から辺りを一望できそうね。帰り道もわかるんじゃないかしら?」
仲間が相談する後ろで、セシルが物言いたげにカライスを見たが
黙って肩をすくめることで返した。
準備を済ませて塔へ向かう途中、セシルは周りに聞こえないよう小さい声で尋ねた。
「あの塔なんだが、てめえも気づいてんだろ?」
「何がですか?」
「強い魔力が集まってる。どう考えたって普通じゃねえ」
「ええ、まあ。でもセシル、貴方も見えてるならあれが罠の類でないことはわかるでしょう。
特に不浄なものは感じませんし、きっと大丈夫ですよ」
1人釈然としないものを抱えたまま、仲間の後を追いかける。
――石造りの塔はどこか寂しげに佇んでいる。近くに立って見上げるとなかなかに高い。
入口を探していると、不意に声を掛けられた。
「辺境の地に旅人とは珍しい。この塔に何か用か?」
「ああうん、実は……」
振り返ったルークはしばし言葉を失った。
そこにいたのは、門番よろしく帽子を被った――
「犬が喋った!?」
「やだ可愛い!喋る動物なんて初めて見たわ!」
「魔法生物……でもねえな。魔力が弱すぎる」
「ほう、そちらの者は魔術に詳しいと見える」
犬はセシルを見て口の端を持ち上げて笑った――ように見えた。
少なくとも、悪意を持って騙そうとしている様子はないようだ。
一行はしばし呆気にとられていたが、いち早く立ち直ったアイリーンが尋ねた。
「えーっと、帰る途中で道に迷っちゃって。どこか街を知らない?」
「ふむ……、私は門番ゆえ塔の外については詳しくない。
しかし他の者ならわかるかもしれん。付いてこい」
そういうと門番はすたすたと歩いていく。一行も慌てて後を追った。
「あなた、犬よね?どうして喋れるの?」
「お主の仲間も言っていたが、私達は魔力によって言葉を得た。
元々この辺りは魔術の栄えた街でな……ああ、ここだ。ここから中に入れる」
塔の中に入った門番は奥でしばらく何やら話していたが、
やがて一行の元に戻ってきて言った。
「頂上にいる者なら街の外にも詳しいはずだ。そこまで別の者に案内を頼んだ」
「そういうことだ。こっからは俺が案内するよ」
そういって塔の奥から現れた彼もまた犬だった。
この街にまともな人間はいないのかと不安に思いながら、
一行は塔の中へと踏み込んだ。
「お客さん達、遠くから来たんだってな。この辺りのことはあいつから聞いたか?」
「魔術で栄えた街という話は聞きました。
塔を見る限り、さぞかし優れた魔術師が集っていたようですね」
「ああ、よく見ただけで分かったな。あんた、魔法にも詳しいのか?
なんでも昔は立派な街だったらしい。この塔にも当時の魔術書が保管されてるんだ」
「じゃあこの本棚も?」
「本棚?……ってフェリシャ、どこ行ってるの!」
気が付くとフェリシャが一行から離れ、壁際に並んだ本棚を眺めている。
急いでアイリーンが連れ戻すが、気にも留めずに案内役の犬に問いかけた。
「全部が魔術書、ってわけじゃないみたいね。いろいろな地方の言葉で書かれているみたい」
「そっちの棚は詩集やら歴史書やらがごっちゃになってる。
1人で管理してるからなかなか整理しきれなくってな。魔術書に興味があるのか?」
「ううん、魔法はよく分からないの。
私はもっと、この街に伝わる物語なんかが知りたいな」
「あ、私も気になります。街の気候や地理、あと歴史とか」
「歴史なぁ……、そういうのは頂上にいる奴が一番詳しいんだが。
なんでもここいら一帯は高い魔力の宿る土地で、魔術を研究してる人間が多かったらしい。
そっちの記録を当たれば、街の成り立ちや環境なんかも載ってるかもな」
「……高い魔力の土地?」
一行の少し後ろ、小声でセシルが呟く。
上へと登る階段に足をかけながら、エリーゼはそれとなく耳をそばだてた。
「その様子では、やはり気づいてなかったんですね」
「って、まさか知ってて黙ってやがったのか……。いつから気づいてたんだ?」
「何の話よ?」
「てめえには関係ねえ……いや、別にいいか。
この塔には強い魔力が集まってる。たぶん、あの犬どもに言葉を与えてるのも魔法の一部だ」
「それだけでなく、街全体にも微弱な魔力が根付いています。
もっとも、セシルがあんまりにも不安そうな顔をしていたので言いませんでしたが」
セシルは僅かにうなだれた。
彼は魔力の流れを視認できる力を持っているが、
ある程度寄り集まった魔力でないと見通すことができない。
その一方でカライスやエリーゼは、種族ゆえか超常的な物への感覚が人一倍鋭い。
特にカライスの魔力を察知する感覚は、セシルのそれを大きく上回る事もあった。
「通りで、建物の崩れ方に比べて草花の伸びが速いと思ったわ。
こいつに見えない程度じゃ、大したことないんでしょうけど」
「悪かったな。だいたいおかしいと思ったんならその場で言えよ」
「これだけ優れた土地ならば、街が魔術で栄えていたというのも十分納得できます。
塀は、それを逃がさないためか……あるいは、街の中に不純物を入れないためか」
エリーゼは穴が開けられただけの簡素な窓から外を見た。
眼下には、草花に覆われた廃墟が広がっている。
2人には違った何かが見えているのだろうか、と嫉妬に似た感情を覚える。
「……ああ、着いた着いた。ここが頂上だ」
先を歩いていた犬が大きく伸びをして、一行を振り返る。
頭上には青空が広がっており、街やその周辺までも一望できた。
「……これは珍しい。外からの客人ですか」
「なんでも迷子なんだと。とりあえず人が住んでる町まで行きたいんだそうだ」
「それはお困りでしょう。皆様、どうぞこちらへ」
そう言って冒険者たちを呼び寄せたのは一羽の鳥だった。
カラスほどの大きさだが、その羽は白い。
「ここからでしたら、東の町が一番近いでしょうか……。
どなたか、地図はお持ちですか?」
「私が持ってるわ。今いるのはこの辺りよね?」
「それじゃ、俺は持ち場に戻るからな。あとは頑張れよ」
エリーゼが地図を広げるのを見て、案内役の犬は階段を戻っていった。
セシルは少し離れたところから2匹を交互に見ていたが、幾分か気落ちした様子で
「結局まともな人間はいねえのか?」
「せっかく親切にしてもらったのに、そんな言い方は失礼よ」
「それはわかってる。なんつうか……。
ここまでの塔と管理者を作れんのに、なんで街に人がいないんだ?
魔術を町の管理に向けりゃあ、いくらでも住みやすくなったろうに」
「それもそうよね。きっと綺麗な街だったでしょうに……
ねえ鳥さん!どうしてここには人が住んでいないの?」
「っておいフェリシャ!?」
怯むセシルを後目に、フェリシャは白い鳥に駆け寄っていく。
鳥はさして驚くでもなく、
「昔はもっと賑やかな街だったのですが、
ある時を境にして住人が次々に出ていってしまったのです。
少しばかり長い話になりますが、興味がおありでしたら詳しくお話しましょうか」
「ほんと? でも、帰る時間もあるから……」
フェリシャは一瞬目を輝かせたが、助けを求めるようにおずおずとエリーゼを見る。
エリーゼはゆっくりと息を吐き、
「教えてもらった道を行けば、半日もあれば町に着くわ。時間の心配はしなくてもいいわよ。
皆もそれでいいわね?」
「うん。フェリシャは旅先の話を聞くのが好きだからね」
他の仲間もめいめい反論がないことを示す。
フェリシャは仲間をぐるりと見渡し、最後に鳥の顔を見つめた。
「そういうことでしたら、お話しましょう」
――かつてこの街には独特の精霊信仰が根付いており、
街は精霊によって守られていると信じられていた。
ここで生まれた人間はみんな精霊の力を授けられ、何かしら特別な力を持っていた。
……ところが、あるとき精霊の力を持たない子供が生まれた。
彼は好奇心旺盛な青年に成長し、とうとう街を出て行ってしまった。
「旅のお方には想像もつかないでしょうが、
精霊の守護を破って街を出ることは決して犯してはならない禁忌も同然だったのです。
この出来事はは街の者達に大きな衝撃を与えました――」
その日を境に外界からの来訪者が少しずつ増えていった。
精霊の力が及ばない人々の存在に住人は怯え、恨みや不安の感情が急速に広がっていった。
変わり果てた故郷に見切りをつけて街を去る者が増え、
とうとう生きた人間は誰もいなくなってしまった。
「最後に残った人々は、私達に人間と同等の知恵とそれ以上の寿命を授けてくれました。
いつか人が戻ってくるときのため、この街と塔を守るために。
特に私は昔からここに住んでいましたので、今の街を見ると心が痛みます……」
「……ねえ、その最初に出て行った人のこと。恨んでない?」
フェリシャがそう尋ねると、鳥はゆっくりと首を振った。
「いいえ、恨むなんてとんでもない。悲しい事ですが、
この穏やかながら狭い世界を出ること……それが彼の運命だったのでしょう」
「そっか……。うん、そうなのね」
フェリシャは曖昧に頷き、そのまま押し黙った。
その仕草は、何か言うべき言葉がありながらためらっているようにも見えた。
カライスは隣にいたルークに何かを耳打ちすると、アイリーンを連れて静かに階段を下りた。
ルークと、何かを察したらしいセシルが彼らに続いて階下へと消える。
「フェリシャ、気になることがあるなら言ってしまいなさい。
遠慮するなんてあなたらしくないわ」
頼れる友人に背中を押され、フェリシャはやっと重い口を開いた。
「……あの。もしかして、フィリーネ・リリエンタールって人を知らない?」
「フィリーネ……なんて懐かしい名前でしょう。ええ、よく覚えています。
お兄様によく似た聡明な娘でした。しかし、なぜ彼女の名を?」
鳥は驚いて聞いた。フェリシャは、彼の目をじっと見つめて答えた。
「私はフェリシャ。こちらの言葉では、フェリーチェ・リリエンタール。
フィリーネの娘です」
彼女の返答に鳥は嘴をびくりと震わせ、言葉を失った様子で立ちつくした。
そして、ゆっくりと目を閉じた。
それはちょうど人間が深く息を吐くような仕草だった。
「どういうこと?あなたの親って……?」
「私もびっくりしたんだけど、ここはお父さんとお母さんが生まれた街みたい。
最初に街を出たっていう人もね、たぶん私のお父さんなの」
小さい頃に教えてもらったおとぎ話が、まさか本当のことだったなんて……と
信じられない様子で、しかし嬉しそうに語った。
「――あなた達、”幻の街ヴェルト”って聞いたことがありますか?」
一足先に地上に降りたカライスが、おもむろに口を開いた。
それぞれが否定の意を示すのを見て話を続ける。
「長い間見つかることなく、地図に載ってからは僅か十数年で滅びた街です。
私も実際に訪れたのは初めてですよ」
「えっ、まさかここがその幻の街なの?」
「おそらくはね。この街の特異な外観は噂とも一致しますし、
塔に納められた書物にも街の名と同じ言語が多数使われていました。
非常に古い言葉ですから、今はそう広まっていないはずです」
「いつの間にそんなところまで見てたの?」
ルークが思わず口をはさむ。カライスの、参謀としての観察眼には驚かされることが多い。
しかしカライス自身は首を振り、
「いえ、気づいたのはフェリシャのおかげです。
考えてみれば、彼女の姓もこの辺りに伝わる古い言葉が由来になっているんです」
「……ひょっとして、あいつが街のことをいやに知りたがってたのは」
「自分のルーツに関わることだから、だったのかもしれません」
そう言ってカライスはにっこりとほほ笑んだ。
パタパタと足音が降りてきて、フェリシャとエリーゼが塔から出てくる。
「ああ、ちょうど帰ってきましたね。お話は済みました?」
「うん、もう大丈夫。待たせちゃってごめんね!」
息を切らしながら笑顔で謝るフェリシャと、その横で今一度地図を取り出すエリーゼ。
日は既に高く上がっている。
一行は次の宿を目指し、塀に囲まれた街を後にした。
ちなみに記事名はシナリオの没タイトル。
ヴェルト(welt):ドイツ語で世界の意
リリエンタール(Lilienthal):ユダヤ系の姓で百合の谷の意 英語読みだとリリエンソール
PC名について:設定上の表記は英語読み、短編中の名前はドイツ語読み
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