一次創作、時々版権ネタ。
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冒険者たちは戦慄した。
異界のように薄暗い森の最深部。
その下生えの中では、数百にも達しようという蔦が、ざわざわと蠢いていた。
エゼル「なんて数だ。まるでこの辺り一帯が暴走する精霊の一部のような……!」
ミアト「エルフ達まで、押されてる……!」
ソニア「精霊は……あった、あれだよ!奥に大きな木がある!」
ソニアの指差す方にはひときわ大きな気がそびえたっている。
しかしこの距離では魔法も蔦に阻まれてしまう。
ドロシーは数瞬考えをめぐらせ、首を振った。
ドロシー「いえ、このままじゃエルフ達が持たない!割って入りましょう!」
エゼル「さすが樹木の精霊、生命力は強いな。傷つけてもすぐ回復してくる」
ソニア「ここまで冷静でいられると腹立つなぁ!どうするの、これじゃキリがないよ!」
ラルフ「1体ずつ確実に狙っていけ!
こっちは戦力が少ねぇんだ、いつもの調子じゃ足元掬われるぞ!」
蔦に阻まれながらも距離を詰めていき、狂った精霊に斬りかかる。
歪んだ力に飲まれた精霊は、急速に枯れながら
最後は粉々になって大地に還っていった。
一行はしばらくそれを見つめていたが、やがてソニアが言った。
ソニア「……あのさ」
ラルフ「ん?」
ソニア「なんか、さっき、『ありがとう』って聞こえた気がした」
ラルフ「……空耳だろ」
ソニア「だろうね」
一行が急ぎ足で小屋へ戻ると、ロークが迎え入れてくれた。
薬は出来たが、思っているよりもイヴァンの衰弱がひどいらしい。
……ドロシーが薬を飲ませるのに手を貸す間、精霊力を見ていたロークが呟く。
ローク「……まずいな。脈が乱れている――炎の精霊の力も強い」
ミアト「……私達……間に合わなかった、のかな」
エゼル「(最悪の場合、こいつも吸血鬼にしてしまえば命だけは助かるだろうが……
俺の力で同胞を増やせるのか、試したことはないからな。一か八かだ)」
ドロシー「……あなたも、私を置いていくつもりですか。
また大事な人を、救えなかったって、そんなの……!」
フラルカ「……イヴァンの身体にも、変化の時間が来たようだな。今夜が峠だろう」
イヴァン「そうかもな。でも僕は皆を……仲間を信じてる」
フラルカの顔は、どこか泣いているようにも見えた。
だが次の瞬間にはそれまでと変わらない、明るい表情を浮かべている。
フラルカ「あれからずっと、きみが人間に戻る方法を考えていた。
……イヴァン。今度は、人間としての、きみの記憶が残る場所に飛んでみないか?
そこへ行けば、人間の記憶がきみの身体を人間につなぎとめるかもしれない」
イヴァン「人間の、僕の記憶が残る場所……?」
フラルカ「たとえば、生まれた土地。たとえば、仲間と旅した地」
イヴァン「苦しかった旅や、楽しかった事……」
フラルカ「憎むべき敵。愛すべき友。――そんな記憶はあるか?」
イヴァン「ああ、ある。フラルカと同じように」
イヴァンはあるひとつの光景を思い浮かべ、そして言った。
イヴァン「東へ行こう。……今は亡き冒険者の治めた地へ」
二匹の竜は高空を飛んでいた。
目指すは辺境の街――へリング。王国領の東端にある荘園だ。
イヴァンは黒々と広がる森を見下ろしながら、フラルカに話して聞かせた。
へリング庄にあるトランの村のこと。
そこの領主はかつて冒険者だったこと。自分の師であり、友人だったこと。
イヴァン「領主とその娘……アルバーティ卿とトルジェとは、昔から仲が良くてね。
あの人達に会うのを、僕も心待ちにしていた。
……だけど依頼のついでに訪れたヘリングには、盗賊が跳梁していた」
かつて盗賊と戦いながら潜り抜けた広い森を、一刻と掛からず越えていく。
夜の闇の中に、いっそう暗い森と亡霊のように青白い丘が広がっていた。
イヴァン「――あれがトラン。僕達が忘れられない悲劇を見た、アルバーティ卿の領地」
フラルカ「あそこにあるのは……館か?焼け落ちて、誰もいないようだ」
イヴァン「さすがは竜の目、よく見えるな。今はもう、誰もいないよ」
トランのアーベル・アルバーティ卿は、娘トルジェを盗賊の手によって殺され
悲しみのあまり死霊術に手を染めた。
そして強大な魔力に操られるがまま、イヴァン達に刃を向けた。だが最後には――
フラルカ「――最期には、イヴァン達に、娘を託したのか」
イヴァン「ああ。トルジェは、アーベルの力で死の淵から救われたんだ」
アーベルは最後に、トルジェを自分に託した。最も信頼する友と、その仲間に。
僕は、その思いに答えられたのだろうか。――いや、足りはしない。
死んでいった者達の思いにも、生きている者達の思いにも、まだ自分は答えられていない。
イヴァン「この地に別れを告げるとき、トルジェは歌っていた。哀しい歌を――
この丘で死んでいった者たちを、慰める歌を。今でもはっきりと思い出せる」
この丘に向け、歌っていたトルジェ。彼女の瞳は、何を見ていたのだろう。
聞いてみたかった。生き延びて――帰り着いて。そして。
イヴァン「生きて帰らないと。会いたい人がいる。――僕を、待ってる人がいる」
「……、……イヴァン……イヴァン!」
ドロシー「意識が戻った……顔色も良くなってる!」
イヴァン「理由は全然わからないが……体の熱が引いてる。痛みも何もない」
ドロシー「――まったく。治療のために、皆で必死で駆けずり回ったのですよ」
イヴァン「そう……か。迷惑かけ……って、待て、抱きつくな、苦しい」
ドロシー「あなたもちょっとぐらい苦しみなさい!皆に迷惑かけた罰です!
全然目を覚まさないから、死んじゃうんじゃないかと思いましたよ」
イヴァン「分かった、悪かったから、離れてくれ」
やっとの思いでドロシーを引きはがし、一息ついたところでソニアの大声が外から響いた。
ソニア「――皆!ドラゴンが、外に!」
ドロシー「ドラゴン……!?少し見てきます」
イヴァン「待ってくれ、僕も行く。肩を貸してくれ」
外にはもう皆が集まっており、その上空にはストリのドラゴンが悠々と舞っていた。
エゼル「あのドラゴン、古代語を話している。
汝……翼……、”これが汝の翼か”?」
イヴァン「いや、フラルカはこう言ってる。 ”これがきみの仲間か”って」
イヴァン「(……素直じゃない剣技の先輩。無口だけど心優しい魔術師。
自由奔放で手に負えない盗賊。頼りになるけど敵に回すと怖い参謀。
……それに、正義感が強くて少しだけ寂しがり屋の親友。これが、僕の仲間だ)」
風が吹き抜ける中、確かに竜の――フラルカの声を聞いた。
「イヴァン―― わたしは待つ。」
・後日談
ラルフ「ああ、これはお前が持ってろ」
イヴァン「これは……技能書?見たところ、魔法剣の指南書みたいだけど」
ラルフ「例の、エルフの依頼の報酬だ。次の依頼までに習得しとけ」
イヴァン「えっ、次の依頼まで!?いくらなんでも無茶だ!」
ラルフ「文句言うな。てめぇしか使える奴がいねえんだ。散々迷惑かけた罰だと思え」
イヴァン「お前までドロシーみたいなことを……」
ソニア「結局、なんでイヴァンだけが竜熱にかかったんだろうね」
エゼル「仮説だが、あいつは精霊や人ならざる者に近いのかもしれないな」
ミアト「それは、どういう……?まさか、人間じゃない?」
エゼル「そこまでは言ってない。冒険者をやっていると変わったものに会う機会も多いだろう?
精霊に長く触れていると、それに影響を受けるのかもしれない」
ソニア「でも、それならあたし達だって同じだよ」
エゼル「あいつは親の代から冒険者だ。変わった血筋を継いでいる可能性はある」
ミアト「そういうもの……?」
エゼル「あくまでも仮説だ。感受性の強さや、精神の強さも関係しているんだろう」
(以下、シナリオ「哀歌」のリプレイおよび後日談の話を交えたネタ。
シナリオ中の捏造設定を多く含みます)
イヴァン「信じてもらえるかわからないけど……あの”夢”の中で、トランの村に行ったんだ」
ドロシー「トランの……?ああ、へリング庄の」
イヴァン「焼け落ちた館を見ていたら、いろんなことを思い出した。
あの事件だけじゃなくて、もっと昔のことも」
父親に連れられて彼と初めて会った時のこと。冒険者になりたいと打ち明けた日のこと。
彼が領主になるまでの輝かしい英雄譚。
イヴァン「彼は紛争で目覚ましい活躍を遂げた――そんな話を思い出していたら、
不意にドロシーの顔が浮かんだんだ」
ドロシー「私ですか?」
イヴァン「ああ。あの時、トランからの帰りに寄った街で、慰霊碑の前で立ち尽くしてた姿が」
ドロシー「……そういえば……アルバーティ卿も、あの紛争に参加していたんでしたっけ」
かの紛争で名声を上げた者もいれば、その陰で人知れず散った者もいる。
ドロシーの養親もその1人だった……と聞かされた。
あの時、犠牲者の名を記した石碑を見つめて泣いていた姿が、鮮明に浮かんだ。
イヴァン「……それを思ったら、帰らなきゃ、って気分になったんだ。
僕までいなくなったら、また1人で泣くかもしれないから」
ドロシー「失礼な、そこまで弱くないですよ。
でも、あなたにまで置いて行かれたらどうしようかと思いました」
イヴァン「大丈夫だよ。今回だって戻ってこられたんだから。これからも何とかなるだろう」
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