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一次創作、時々版権ネタ。
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推奨レベル5~7

NPC主導のシーンや長台詞などは、雰囲気を壊さない程度に一部削ってます。
伏線が多く張り巡らされているので、本当は全部載せたかったんですが……
また、キリのいいところで分割しているので、
記事によって長さがまちまちなのはご容赦ください。

ネタバレ、スクショ大量につき注意。



東の空に月が昇ったころ、
冒険者と村人達は、村中央の広場で火を囲んでいた。
村人たちは、みな神妙な面持ちだ。長の朗々たる声が、夜のしじまに吸い込まれてゆく。





長に答えた民の唱和する声が、夜空へ高らかに響き渡った。
そして、次々と料理が運び込まれてきた。
先ほどまでの厳粛な雰囲気は一変し、広場は村人達の陽気な声で満たされている。


ルーク「それじゃあ、ちょっといろいろまわって見てこようかな」
アイリーン「うん、いってらっしゃい! さて、僕もしばらく見て回ろうっと」



アイリーン「……ん?フェリシャの周りに人だかりが……」



アイリーン「あ、『銀の勇者』を歌ってたのかー。聞きたかったなあ。
人の集まる場では人気者だよね。あれだけで食べていけそうな気がするけどなあ……。
ただ広い世界を見たいだけなら、冒険者にならなくても良さそうなものなのに」

アイリーン「セシルは……と。いたいた。なんか村人に言い寄られてるみたい……?」




アイリーン(……というか、逃げようとしてるようにも見えるんだけど。大丈夫かな。
それにしても、あんな見た目なのに言い寄る人がいるんだ。さすがに砂漠の民は違うなあ)



アイリーン「退屈してるなら、一緒に見て回る?」
ルーク「ううん、いい。もうしばらくしたら寝るよ」
アイリーン「そう。疲れもあるだろうしね。ゆっくり寝てね」
ルーク「うん、ありがとう、アイリーン」

アイリーン(こういう騒ぎにはあんまり興味を示さないんだよね。
もっとフェリシャみたいに……とまでは言わないけど、好奇心を持ってくれればいいのに)

アイリーン「こっちは、村の中心だよね。……あっ、エリーゼが踊ってる」




アイリーン「やっぱり、一芸を持ってると強いよね。今日はフェリシャと一緒にやらないのかな。
……あれ?そういえば、カライスはどこに行ったんだろう」



アイリーン「あ、ここにいたんだ。どうしたの、こんなところで」
カライス「……ええ。少し夜風に当たりたくなったので」
アイリーン「そういえば、どこか体調でも悪いんじゃない?
ここに来てから、時々そんな風に見えたんだけど」
カライス「――さすがというか。アイリーンには、隠すだけ無駄ですね」
アイリーン「当たり前だよ。大事な仲間なんだから」

カライス「心配ありません。だけど、この村にはあまり長居しない方がいいかもしれません」
アイリーン「……なぜ?」
カライス「不思議な魔力が満ちているんです。時々気分が悪くなるのもそのせいでしょう。
なにか……訴えかけてくるような」
アイリーン「そう……。なんといっても、死の砂漠のただなかだから。
どんな不思議があってもおかしくない。
もともと明日には発つつもりだったけど。一晩休んだら早速発とう」
カライス「……アイリーン。調べたがるかと思ってたんですが……」
アイリーン「実は、セシルも似たようなことを言ってたんだ。あの神木には近づくなって。
僕1人なら気の済むところまで調べたいところだけど、きっとロクなもんじゃないよ。
ここでの収穫はもう十分だしね。だから、心配しないで。早く休みなよ。」
カライス「……ん。ありがとうございます、アイリーン」
アイリーン(……本当に大丈夫かな。もしカライスに何かあったら、耐えられないよ)

アイリーン「さて、一通り見て回れたかな。
まだ行っていない方角といえば、神木があったあたりか。
……セシルはああ言ってたけど、僕は何も感じなかったし。ついでだから行ってみよう」



タリアはアイリーンに気づき、会釈をし――
少しまごついているように見える。

アイリーン「……ああ。そういえば、まだ名乗ってなかったね。アイリーンだよ」
タリア「人に名をお尋ねすることがない物ですから……。ありがとうございます。」

タリア「アイリーン。不思議な名前ですね。砂の音のような、水の上の破門のような響き……」
アイリーン「親からもらった自慢の名前だけど、そんなこと言われたのは初めて。
宴には参加しないの?ずいぶん盛り上がってるよ」
タリア「なんとはなしに、ここに足が向きました。周りが、騒がしいからこそでしょうか」
アイリーン「ここ……ご神木、か」
タリア「あの木は、”星たる神”の瞳。かの身がお隠れになる昼の間にも、我らを見守ってくださいます」

タリア「アイリーン。物売りではないのでしょう?
たまさか村に訪れる物売りとは、あなたがたは…… あなたは、どこか違う」
アイリーン「……そう。僕たちは、冒険者だよ」

目を瞬かせるタリアに、砂漠を遠く離れた地に存在する
冒険者という生業について簡単に説明した。

アイリーン「雪の吹きすさぶ山道も、霧深い森も歩いたことがあるけど、今度こそ死ぬかと思ったよ」
タリア「――アイリーンの言葉が、まことの異国の言葉に聞こえます。
いろいろな土地を旅しておられるのですね。
私も、そのように旅をすれば。この身と共に、悲しみも、風となるのでしょうか」
アイリーン「……何か、あったの?」

昔話になります、と一言前置きして語った。

幼い頃から、ともに信仰を守り、夫婦になる契りを交わしている人がいた。
2人の間には、優しい絆があるように見えた。幸福だけがあるように見えた。
しかし、婚礼の偽を間近に迎えたある日、
彼は、タルナーグから来ていた美しい商人の娘と共に村を出ていってしまった――

アイリーンは相槌を打つこともできず、息を詰まらせた。考えた。
彼女にとって”タルナーグから来た者”がどんな意味を持っていたのか。
そして、ひとかけらも負の感情を感じさせなかった、
彼女のこれまでの振る舞いを思い起こした。

タリア「何故、と神のおわす夜空に向けて、問いかけました。
私のどこがいけなかったのか。どんな深いわけが彼にあったのか。
まことのことは分かっていました。耳を塞いでいただけなのです。
彼にとって、私よりも、彼女が魅力のある娘だった。ただそれだけのことなのです。
どれほど耳を塞いでも、聞こえぬふりをしても、それが真実。
どんな理由より、私を打ちのめす―― アイリーン、分かりますか」

アイリーン「……真実を見るというのは、勇気のいることだね」
タリア「はい。真実。その、痛み。重み。己が何ほどのものでもないということを知ること。
私も、あなたのように旅をすれば、
その痛みや恐怖から逃れうるなどと思うのは、浅はかでしょうか」




アイリーン「目を閉じて、耳を塞いで、知らなかったふりをしたくなることもあるけど、
それでは生き延びることは出来ない。
”こうであってほしい”、”きっとこうであるはずだ”――
そんな都合のいい考え方は、死につながる」




アイリーン「……先に戻る。冷えるから、ほどほどにしておきなよ」

頷いたタリアの瞳に涙はあったが、アイリーンと話す前に合った孤独な憂いは、もうない。
タリアを残し、1人中心地に戻った。

アイリーン(……少し、冒険者について悪いような言い方をしちゃったな。
本当のこととはいえ、皆に聞かれなくてよかった)


アイリーン「ちょっと、ね。……それより、何なのそれ。両手にいろいろ抱えて?」
エリーゼ「親切な商人が譲ってくれたのよ。ぜーんぶタダで」
アイリーン(……疑わしい……。けど、エリーゼに限って姑息な手は使わないか。
さしずめ、踊りのお代ってところなのかな。うん、きっとそうだ)

天幕に入ると、先に戻った仲間たちがそれぞれだらしなく眠りについている。



4に続きます。
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